紀ノ川での釣り
渓流の話では無いが、聞いた後に何とも爽快な気分にさせてくれる話である。
私の友人の秋君が、親戚の事業を手伝いに和歌山県で暮らした頃に、実際に見た出来事である。
親戚の事業とは金融会社で、秋君はそこの店長として暇な毎日を過ごしていた。ある時、定休日を利用して社員達と紀ノ川で釣りをしながら、のどかな一日を過ごしていた。釣れても釣れなくてもいいやと起き竿にしておいたのが突然しなり始めた。大騒ぎの後に釣れた予期せぬ獲物は真っ黒いナマズだった。さっそくその足で会社に行き、使っていなかった大きな水槽を取り出して、ナマズを入れた。
ナマズの災難
次の日出社すると、社員の一人が近くの熱帯魚屋で小さくて綺麗な魚を沢山買ってきて、ナマズのいる水槽に入れた。ところが、水槽に入れた途端に小さな魚達がナマズめがけて一斉に襲いかかっていった。そう、その小さな魚達とは何とピラニアだったのです。ナマズにとってはとんだ災難でした。ピラニア達は急降下して噛み付く奴もいれば、スト-カ-のようにつきまといながら突っつき回す奴もいましたが、いかんせん小さいのでナマズはすぐに弱ってしまう事は有りませんでした。ナマズはと言うと、慌てて暴れるそぶりもなく嫌がって逃げる事もせず、目だけをギョロつかせながら動じないその姿には見習わなければいけない威厳が漂っていたそうです。それでもピラニア達に噛み付かれたところは黒い皮が剥げて白くなっていたり、ひどいところは白い糸くずを引くように皮膚がボロボロになっていました。「こりゃあかんのう。明日は骨だけんなって浮いとるわ。」社員達はナマズを気の毒に思いながらも、誰一人紀ノ川まで帰しに行こうという、既得な考えを持つ者もいないまま全員が退社してしまった。
怖いもの見たさ
翌日、出社した社員達はドアを開けて入るたびに、真っ先に水槽に目をやった。まさに”怖いもの見たさ”である。そして誰もが「ウオ-ッ!」と仰天して声を上げた。そこには骨だけになったナマズの見るも無惨な姿では無く、元気に泳ぐナマズの姿しかなかっのである。ピラニア達は全てナマズのおなかの中に収まってしまったのです。夜行性のナマズさんは夜をジ-ッと待って、一気に逆襲に出たわけです。それからというものは、社員全員がこのナマズを”先生”と尊敬し、朝、夕の挨拶も欠かさなくなったそうな・・・。