「こんなところに置いとくと壊れちゃうよ」と行った時にはすでに手遅れで、液晶画面は何も映らなくなっていた。それでも釣れて機嫌の良い正東は、さほど気にするでもなくモスバック(徳の師匠が経営する喫茶店)へと向かった。
モスバックで釣り談議も一段落したところで、正東が思い出したように携帯をテ-ブルの上へ置き、「これどうしたら直るかな-」と言った。
事情を聞いた師匠が突然目を輝かせながら、「うちの冷凍庫に入れてみたら?」と言った。
熱してやられたのだから冷やせば治るかも・・・。単純な発想である。しかしこれは、釣りの達人的な発想でもある。押してもだめなら引いてみな、浮かせてもだめなら沈めてみな、自然に流してもだめなら動かしてみな。すでに釣りモ-ドに思考が染まっている正東と私徳は、師匠の「的を得たお言葉」に感動してしまってる。
かくして正東の携帯電話はモスバックの大きな冷凍庫に数時間眠る羽目となりました。
そして数時間後には見事な金属アイスノンと化したのでした。
私は釣りの達人と呼ばれる方々が釣りの世界を脱すると、少し変わって見られるその根源を垣間見たような気がした。

若い頃友人Sと一緒に遊びに行った。
今はどうだか分からないが、当時はお猿との触れ合いも多い反面、いたずらされることも多かった。
到着してすぐに女性の悲鳴が聞こえたので振り向くと、猿がおばさんのハンドバックをひったくって塀の上に逃げている。監視員が「こら!」と怒ると、余計皮肉れてハンドバックを下に向けて開いて中身を全部下に落としてしまった。友人Sと私はいけないと思いながらもこらえ切れずに笑ってしまった。
無法常態かと思ったがそうでもない。犬が3匹離れて並び一定の場所から猿達が逃げられないように監視している。
お猿の海岸を散歩していると、今度は若い女性の正面に小猿が座り込んでスカートを引っ張って話さないでいる。困った女性がハンドバックからクッキーを出して渡すと喜んで食べる。便乗して後ろにも座り込んで女性のスカートを引っ張ってねだる奴がいる。それは何と!いつの間にか私の隣から消えた、友人Sだった(爆笑)。
女性はゲラゲラ笑いながら「あら、貴方も欲しいの?!」と言って、Sにもクッキーをくれた。私はSからクッキーのおすそ分けを食べながら、楽しい旅行に満足した。
耳を澄ますと「特選CD・DVDフェア」と書かれた催事場から聞こえて来る。ついふらりと店内に入る。
あれは徳が17の頃だった。カーペンターズが来日して、当時付き合っていた彼女とライヴを見た時の思い出が甦る。カレンの優しく響く低い声と歌っている時の笑顔がとても素敵だった。誕生日も血液型も一緒で名前も似ていた当時の彼女の思い出とオーバーラップする。昨日の事のようにリアルに甦る。
徳はつい感極まって流れる曲と共に口ずさんでしまった。
「エブリィ♪シャラララ♪」♪ララララララララ♪「・・・?」♪ララララララララ♪ララララ♪「× ××!!」
ララララは限りなく続きそうだった。
あわててCDを止めに来る店員、買う前で良かった~としらけて店を出る徳。 ージ・エンドー
好きな彼女が出来てデートに誘った。映画~食事と言うごく普通のデート。
でもその内容が普通じゃあ無かった・・・。
その日に観た映画は「仁義無き戦い」。映画館入り口でチケットを買う時、初のデートで浮き足立ったB先輩は、「男1枚、女1枚」と言い切った。
彼女はその時、面白い冗談を言う人だと思ったそうだ。
映画を観た後、近くのレストランへ。
B先輩は映画の興奮がまだ冷めやらぬ様子。
ウェイター 「ご注文の方お決まりでしょうか?」
B先輩 「スパゲティ。」
ウェイター 「ミートになさいますか?ナポリタンになさいますか?」
B先輩 「俺はス・パ・ゲ・テ・ィが食いてんだ。」
ウェイター 「ミートになさいますか?ナポリタンになさいますか?」
B先輩、仁義無き戦いのやくざになり切ってテーブルをバーン!と叩いた。
「この店は客が食いたいものも食わせねえのか!」
ウェイター 「あの~当店スパゲティにはミートとナポリタンがあるんですが~。」
B先輩 「そ、それを早く言え!」
この日、彼女とのデートが最初で最後になったのは言うまでもない。
ある日B先輩がパチンコをしていた。それを見ていた後輩が後でその異様な光景を語ってくれた。
玉がよく入り始めた途端に出所が詰まり流れが悪くなって、せっかくのチャンスを逃してしまった。
「このクソ台!」
台を叩いて怒った先輩の顔が、しばらくして泣きべそをかくような情けない顔に変わり、台に向ってなにやら囁いている。
耳をこらして聞くと
「台君ごめんね。もう怒って叩いたりしないから機嫌なおして。」
それでも機嫌をそこねた台は容赦なかった。あっという間に玉は空になりゲーム終了。その姿を見て隣の席の見ず知らずのあんちゃんが呆れて笑っていた。
気分を害したB先輩がそのあんちゃんにチラリと睨みをくれてから席を立ち去ろうとすると、後ろで服が引っ張られる。
「・・・はなせ。俺は今機嫌が悪いんだ。は・な・せ・よ。はなせって言ってんだろこの野郎!」
B先輩が振り向くと、服はパチンコ台のハンドルに見事に引っかかっていた。
当時はキャバクラと言うのは世に存在せず、クラブとスナック以外ははっきりとした内容の位置付けも曖昧で大まかに「キャバレー」と呼ぶ所が多く、入って見ないと分からなかった。
大久保駅ガード横の細長いビルの5階。前回他の友人と二人で入った時に、綺麗なお姉さんと恋人気分になれた事に気を良くして、新たに友人AとRを連れて入店した。
ごあんな~い♪ヽ(*'-^*)o
前回のお姉さんが辞めていなくなっていてガッカリした。
同席した女性は二人。一人は厚化粧で、目を凝らすと自分の母親に近い年にも見える。すぐさま機転を利かせてAの横に座らせる。もう一人の女性はまだ20代後半と言ったところか、少しごついが渡りに船とばかりに私とRの間に座ってもらう。
一生懸命笑い話で場を盛り上げるが、楽しませる方がお金を払うとゆう現実に矛盾を感じていたので、楽しまなきゃ損と思い、テーブルの下からそっと女性の手に触れた。
抵抗しない事を確認して手を取る。脈ありと思い握り締める。しばらくして「ギュー!!」と、握り返してきた。いくらごついとは言え、とても女性の力とは思えない握力である。宇宙人か!それともニューハーフか!!
たぐり寄せて握った手の出所を目で追った。((o(○`ε´○)o)) 笑いをこらえて真っ赤になった友人Rの手だった (〇o〇;)
「ブハー!!」と噴出して弾けた笑いはお互い「ヒー!ヒー!」とゆう笑い泣きに変わり、手を握りながら離してくれずに延々と続いた。
歌いに行く場所と言えばスナックかパブだった。カラオケ自体がまだ流行ってない時代だけに歌の上手い人よりもヘタクソが圧倒的に多かった。
その中でも特にヘタクソな友人二人がデュエットした。私も含めて仲間は7名。
そこはホームグランドの浅草のとある地下のパブ。広くて暗くて豪華である。エンジ色でビロードの大きなソファーに大理石のテーブル、大きなシャンデリアとやはりエンジのカーテン。映画でよく見るやくざ同士のドンパチが似合いそうな今ならば重要文化財に指定されそうな作りである。
白のタキシードを着てポマードで髪を光らせた細面のお兄さんがニコニコと微笑みながらピアノを弾き始めた。
歌う二人の名は、ミツヒコとトシボウ。浅草界隈ではやんちゃで有名な二人だが、音痴でも有名だ。
しゃがれて甲高いミツヒコの歌声と低くしゃがれたトシボウの歌声は、お互い軽く1オクターブは音程が外れて、この世のものとは思えない偶然で奇妙なハーモニーとなった。坊さんのお経と狂言師との戦いにも聴こえる。店内爆笑。
ピアニストの微笑みはすぐに消えて、優しい顔がみるみる険しくなって行く・・・眉毛を吊り上げ口がへの字に変わってゆく様子は、映画「大魔神怒る」を思い出させた。
「バーン!」
ピアニストはいきなりピアノを叩いて、唇をワナワナと震わせながら吐き捨てるように言った。
「やってらんないよ!」
そして店を飛び出してどこかへ行ってしまった。
ピアニストには悪いが、私は人生でこの時ほど笑い転げた事は無かった。(*≧m≦*)
それは私がまだ若かった二十歳の時、釣り場に向かう途中に起こった印象深い出来事(事件)である。
朝マヅメの釣りに間に合うために、一人甲州街道を車でひたすら西へと向かっていた。深夜の国道は走る車もまばらで、眠気と寂しさを癒すため、青信号をいくつ通過できるかを一人で数えながら走った。その内、信号待ちで隣に着いた車が盛んにアクセルをふかし始めた。気づいた私が隣に目をやると、シャコタンの白い車に乗ったとっぽいあんちゃんが、ニヤニヤと挑発的な表情でこちらを見ている。(オイオイ、おまえも暇人か~)私が彼の挑戦を受けない理由は何もなかった。
信号が青に変わった途端、私の車はス-パ-ダッシュ!いきなり挑戦に応じてきた私に驚いて出遅れた白いシャコタンは、爆音をたてて追いかけてくる。そして再び信号待ち。シャコタンは青に変わる直前に平気でフライングしてすっ飛び出た。(オイオイ、おまえさんは勝つためには手段を選ばねえのか~)



青信号を三つ越えたところでシャコタン君が5メ-トルほど私をリ-ド。遠い前方を見ると次の信号が黄色に変わった。私はシフトダウンをして思いっきりアクセルを踏み、シャコタンをひとまず追い越して自己満足したあと減速した。一瞬抜かれたシャコタンはむきになって加速して、赤に変わりそうな交差点に突入していった。と、その時、右から少し早めに発進して来た軽トラックがシャコタン君と接触しそうになった。
「あぶない!」
ドキッとした私の叫び声とほぼ同時に、思いっきり左にハンドルを切ったシャコタンはスピンしながら歩道に乗り上げ、今度は右にハンドルを切った拍子に高い歩道から右のタイヤが道路側へガクンと落ちてゆっくりとひっくり返った。
私は信号脇に車を止めて慌てて駆け寄った。近くまで行くとさすがに気まずさで歩み寄るスピ-ドが鈍ったが、接触しそうになった軽トラックから下りてきたオッチャン二人は更に気まずそうである。そしてオッチャン二人は、恐る恐る逆さになったままの白いシャコタンの中をのぞき込んだ。その途端、心配そうな顔が徐々にほころび、ニヤニヤとし始めたかと思ったら、ゲラゲラと笑い始めた。私はキョトンとしながら、車の中をのぞいた。逆さになった彼が人なつこそうな表情で照れ笑いしている。その車内のカ-ステレオからは当時のヒット曲、夏木マリの「お手柔らかに」が軽快に流れていた。・・・私の負けよ~♪お手柔らかに~♪♪・・・。

2002年8月下旬火曜日の朝、深夜まで仕事をして眠りについていた私の耳に「兵庫県山中の畑で、珍獣発見」とテレビで騒ぐ声が聞こえてきた。目を覚ますと日本テレビ峰竜太の「情報ツウ」と言う番組だった。見た事も無い珍獣が畑で弱ってうずくまっていて捕獲したが、獣医さんですら何の動物だか分からないまま、死んでしまったと言う。冷凍保存してあるが、引き取り手がいなければ埋葬する予定だそうだ。
私はテレビに映ったその珍獣の写真を見て驚いた!裂けた口、鋭い爪、毛の抜けた肌の色・・・。
それは。。。。